晴明が身を起こしたのは、夜半を過ぎる頃であった。

         「戻りました。」

         晴明は体をまっすぐに起こすと、保憲に頭を下げる。

         「うむ」

         保憲は安堵したようにうなずいた。

         いつのまにか晴明の膝の上に、ふわふわした毛の狐の子が丸くなっている。

         保憲の膝の上で目を閉じていた猫又が薄目を開き、胡散臭そうに狐を見やる。

         「それが唐土の古狐どのか?」

         保憲はあきれたように言った。

         「はい」

         晴明はうなずき、呪を唱えながら狐の背を撫でた。すると狐は柔らかく光を発したかと思うと、すうっと消えてしまった。

         その様子をじいっと見ていた猫又は、つまらなそうにあくびを一つして、また目を閉じた。

         「見事」

         保憲の賞賛に晴明はかぶりを振った。

         「博雅の力ですよ。」

         「博雅さまの?」

         保憲はけげんな顔をした。

         晴明は、博雅の方に向き直り、閉じた瞼の上に指をかざした。

         「博雅!」

         声をかけた。

 

         晴明に呼ばれるまで、いくらか間があった。

         「博雅!」

         呼ばれて目を開くと、一瞬晴明の顔が逆さに見えたような気がしたが、まばたきをすると、それは見慣れた自分の寝所の天井になっていた。

         「お目覚めになった!」

         傍らから声が上がったので見ると、乳母の萩生が突っ伏して泣いている。

         思わず跳ね起きて、辺りを見回すと、賀茂保憲と目が合った。

         「晴明は?」

         保憲は優しく微笑んでいた。彼が目で示したので、枕元を振り返った博雅は、そこで世にも不思議なものを見た。

 

         晴明が、泣いていた。

 

       続く


       この、最後の一行が書きたいばかりにここまで書いてきたような・・・。所詮ただの映画好き?

         一応、次回で最終回でございます。

 

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