THE COPPER BEECHES 第8話 ぶなの木屋敷の怪

 監督: ポール・アネット director...Paul Annett

 脚色: ビル・クレイグ dramatized...Bill Craig

 ゲスト: ナターシャ・リチャードスン(ヴァイオレット・ハンター) Natasha Richardson as Violet Hunter

      ジョス・アックランド(ジョフロ・ルーキャッスル) Joss Ackland as Jephro Ruscastle

 家庭教師で生計を立てるヴァイオレットに、持ち込まれた奇妙な就職口。相場よりも遥かに高い賃金を支払う代わりに髪を切ることを要求される。不安を感じたヴァイオレットは、ホームズに相談を持ちかけ、「何かあったら連絡しろ」というホームズの言葉を頼りに、依頼を受け、就職先のぶなの木屋敷へと向かう。そこで彼女が直面する奇怪な出来事とは?雇い主ルーキャッスルの奇妙な要求の理由は?

 NHK版は、今回正典の有名なシーンを2つも見事にぶった切ってくれてます。まず、冒頭、ホームズがワトスンの著作を「色をつけ過ぎる」と非難する件り。正典ではワトスンは「うんざり」はするものの、比較的冷静に対応してますが、グラナダ版は怒って言い争いになってしまってますね。個人的には、ここでワトスンがかっとする必然性が余りよくわからない。でも、ここをカットしてしまうと、ラストの場面、ワトスンが事件の記録をホームズに読んで聞かせるところが生きてこないですよね。

 そして、もう1箇所は、ウィンチェスターに向かう途中の汽車の中で、ワトスンが田園風景の美しさに感動すると、ホームズが「孤立しすぎている。恐ろしい犯罪の巣だ」と述べる件り。ホームズのキャラクターをよく表している、有名な場面なので、カットしないで欲しかったですね。ただ、都会より田舎の方が人々が孤立していて犯罪が起こり易いというのは、日本人にはちょっと馴染まない感覚かもしれませんけど。日本では、田舎の方が共同体の結びつきが強くて相互監視による犯罪の抑止が効いてますものね。冒頭のホームズの台詞、「なくした鉛筆を探してくれ、だの」を翻訳の段階で「いなくなった猫を探してくれ」と変えたのも、同じ理由でしょうか?こちらの変更はちょっと面白いな、と思いました。日本では、探偵へのしょうもない依頼と言えば、いなくなった犬や猫を探す、ですものね。

 正典中有名なエピソードで、クオリティの高い内容ですので、ほぼ変更なし。正典では、事件の真相をウィンチェスターのホテルでホームズがペラペラしゃべっちゃいますが、ドラマでは、最後の最後まで伏せられている構成になっているくらい。あと、正典ではアリス救出に加担するのはトラー夫人だけですが、グラナダ版では夫婦が一緒に手を貸すようになってますね。確かに梯子を用意したり、犬が檻の外に出ないようにする、というのは夫人だけでは難しいようです。

 で、やっぱり、今回のドラマで一番印象的描かれているのは、ヴァイオレット演じるナターシャ・リチャードスンの美しさ、ですね。アップが無闇に多かったし。が、改めて正典を読み直してみると、ヴァイオレットは美しい女性、というよりしっかりした女性である点の方が強調されています。ベーカー街を訪れた時もきびきびした態度でホームズの好感を得ていますし、アリスが幽閉されている塔に近づく時も、好奇心よりも義務感の方が強かったと述べているところも、正義感の強い女性であることを印象付けます。ホテルでホームズとワトスンに話をする場面でも、グラナダ版のようにうろたえてはいませんでした。しかし、グラナダ版のヴァイオレットは、女性らしい繊細な部分が多く描かれ、感じやすそうなリチャードスンの表情を印象深く描こうとしているように見え、正典ほどは「勇敢なひと」という印象は受けません。ルーキャッスルに「犬に食わせてやる」と脅されたことを話す時に、こわがって泣いてしまったり、なんてことは正典のヴァイオレットにはありませんでした。ワトスンが彼女を「自分の身を守ることができる女性」と評するところもグラナダ版にはないですし。(「美しき自転車乗り」のヴァイオレット・スミスについてホームズが評するコメントになってましたね)

 結局、第2シリーズ第1話ということもあり、大女優ヴァネッサ・レッドグレーヴの娘であり、ドラマ初出演だったというリチャードスンの売り出しのためなんじゃないかと勘ぐりたくなりますね。(爆)ドラマの最初のクレジットでも、リチャードスンの名前の上にintroduceという語が〜。ホームズがヴァイオレットの髪にやたら触るのはセクハラだ、とDVDのブックレットには書いてありましたが、これも「ホームズに髪を触られるヴァイオレットのアップ」が狙いだったんじゃないかなー。

 でも、まあ、ブックレットとか求龍堂の本とかによく載っている、お花畑でジェレミーとデヴィッドとナターシャが3人で写っているスチール写真がむっちゃ可愛いので許す。(笑)

 リチャードスン以外のゲストも、ルーキャッスル役のアックランドは、愛想はいいけど何か胡散臭い感じがよく出てましたし、ルーキャッスル夫人が「顔ばかりでなく心のなかまでも血の気がうすい」という表現にぴったり。ただ、ちょっと老け顔で、若い後妻、という感じはなかったですね。(失礼)

 正典でも、ホームズが「僕の妹だったら反対する」と言うところが個人的にとても好きなのですが、正典ではこれを面と向かってヴァイオレットにも言っちゃってますけど、グラナダ版ではヴァイオレットを送り出した後、ぽつんと「僕の妹だったら絶対に反対するのだが」と言うようになっていて、ヴァイオレットを無闇に不安がらせまい、という配慮があったように見え、なかなかよいです。

 そして最後のドラマのオリジナルの場面、ワトスンが読んで聞かせた事件の記録に対して、ホームズは「素晴らしい」と評しておきながら、密かに皮肉っぽい表情をする、という件りですが、DVDブックレットではワトスンはホームズにほんとにほめられたと思って満足した、とありましたが、私の目にはワトスンも「ほんとかよ」って顔をしているように見えたんですが。二人の関係から考えれば、ホームズも本気でホメてないし、ワトスンもそれをマに受けてない、と解釈した方がいいと思うんですけどね。

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