THE BOSCOMBE VALLEY MYSTERY 第27話 ボスコム渓谷の惨劇

 監督: ジューン・ハウスン director...June Howson

 脚色: ジョン・ホークスワース dramatized...John Hawksworth

 ゲスト: ピーター・ヴォーン(ジョン・ターナー) Peter Vaughan as Johnn Turner

      ジョナサン・バーロウ(サマビー警部) Jonathan Barlow as Inspecter Summerby

      レスリー・スコフィールド(ウィリアム・マッカーシー) Leslie Schofield as William Mccarthy

      ジョアンナ・ロス(アリス・ターナー) Jonathan Barlow as Alice Turner

      ジェームズ・ピュアホイ(ジェームズ・マッカーシー) James Purefoy as James Mccarthy

 美しいボスコム渓谷でオーストラリア人の農夫が殴殺され、直前まで言い争っていた息子に嫌疑がかかる。彼の無実を信じる美しいアリスの依頼で事件に取り組むホームズは、やがてその裏に植民地オーストラリアにまつわる古い秘密が隠されていることを知る・・・。

 正典は、謎解きの意外性もないし、ストーリーの展開も単調で、割と「凡作」の部類に入るのではないかと思われます。ホームズが猟犬よろしく地面に這いつくばって現場検証した結果は事件の解明に直接には役立たず、「クーイ」という合図の声と「A RAT」→「BALLARAT」→オーストラリアの連想だけが真犯人を特定した、というのは少々物足りないですね。しかもグラナダ版では、オーストラリアの先住民の合図というのははぶかれてしまっているし。犯人側の事情も、ホームズが見逃してやるほど同情すべき点があるとは思えない。オーストラリア時代のことを言えば、明らかにターナーが加害者で、マッカーシーは被害者だし、マッカーシーにたかられていたにしてはターナー家の暮らし向きは十分裕福に見えるし、父親はともかく、ジェームズはアリスを愛しているわけだから、二人が結婚することの不都合さが余りぴんとこない。ターナーの死後、マッカーシーがアリスに父親の過去をバラしてしまうというのは、確かに心配されることではありますが。

 それでも、グラナダ版は、原作を一旦解体し、ほとんどオリジナルの展開を入れずに手際よく再編集しているので、安心して見られる作品になっていると思います。ロケ地の風景も美しいし、猟番のクラウダーがコーヒーを淹れる場面や検屍法廷の場面など、細部の描写が細やかで、作りがいつもに増して丁寧。ホームズとワトスンが泊まるホテルが素敵ですね。

 主なドラマでの変更点は、まず、ワトスン夫妻の会話から始まる正典の冒頭部分を、ワトスンが一人で休暇を楽しんでいるところにホームズが押しかけてきて・・・という場面に変えていること。グラナダ版には「ワトスン夫人」は登場しないので、当然の変更ですが、それにしても、グラナダ版のワトスンはよく一人で休暇に行きますよね(笑)。一応ホームズも誘うんでしょうけど、「田舎の空気は体に悪い」とか言って断られるんでしょうね。で、「君もロンドンを離れなきゃいいのに」とかって駄々をこねたりして。(・・・すみません、妄想爆発です)最初は「君の邪魔をしたくない」とか言っておきながら、いざワトスンが一緒に行ってくれるとなると途端に「35分後の汽車だ」ですからね。余りにお約束なホームズが素敵vv

 この後、ホテルの前庭で、ワトスンが新聞を読み、ホームズがこれを投げ散らかす場面は、正典の列車の中の場面のアレンジですが、非常にテンポがよく、心地よい場面運びでした。正典ではレストレイド警部が登場するところを、サマビー警部というオリジナルのキャラに置き換えているのは、ロンドンの街中ではない、田園地帯の雰囲気を出すためでしょうか。レストレイドの活躍の場はあくまでロンドンの街中、ということで。

 ゲストの役者さんもなかなかの粒ぞろい。爽やかなサマビー警部も素敵ですし、「しっかりしろ〜」と揺さぶりたくなるようなウィリアムくんはなかなかの好演、可憐なアリスはちょっとオードリー・ヘプバーンに似てますね。容姿だけでなく、声とか話し方とかも。アリスは、ホームズも尊敬しているが、それ以前に作家としてのワトスンのファンなのでは?と思ったのは私だけかしら。ワトスンに紹介された時の方が嬉しそうだった気がします。正典のアリスは一気にしゃべりまくりで何やらやたらハイ・テンションなお嬢さんな印象しかないですが、ドラマでは一途だけどしっかりした感じが出ていてよかったです。ちょっと頼りないウィリアムくん、尻に敷かれそうですね。

 それから、ターナー役のヴォーンの圧倒的な存在感。最初に挙げたような、やや薄弱な犯行動機も、有無を言わさず納得させられる迫力がありました。

 そして、今回特に印象に残ったのは、ジェレミーの表情の動き。そろそろふっくらしてきた感じなのですが、それを補うかのような表情の繊細さが魅力的でした。ホームズとしては表情豊かすぎなきらいもありますが。ワトスンが一緒に行ってくれると聞いて「え?ほんとに?」という顔、ワトスンが「メキシコ贋金事件の・・・」と間違えたので、「スペインだよ」とむっとするのだけど、ワトスンが「君を崇拝していたな」と言うと、一瞬うれしそうな顔になる。わかりやすい・・・。馬車の上で三人で大爆笑、という場面も、ちょっと表情豊かなホームズを狙ってみました、の延長なのかもしれません。

 あと、細かいところなのですが、少々突っ込みを。マッカーシーはずい分ひどく殴られたようなのですが、それにしては加害者の衣服に血が飛び散ったような描写がないのが不思議。正典に関わる部分ですが、袖口のところに血がついていただけのウィリアムが犯人扱いされるのはちょっと不自然かも。それから、ラストシーン、父を失ってまもない筈のアリスが喪服を着ていないのが気になってしまったです。

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