THE BRUCE PARTINGTON PLANS 第24話 ブルース・パーティントン設計書

 監督: ジョン・ゴリー director...John Gorrie

 脚色: ジョン・ホークスワース dramatized...John Hawksworth

 ゲスト: デニス・リル(ブラッドストリート警部) Dennis Lill as Inspector Bradstreet

      ジョナサン・ニュース(ヴァレンタイン・ウォルター大佐) Jonathan Newth as Colonel Valentine Walter

 マイクロフトが突然軌道を外れて、自らベーカー街を訪れた。地下鉄の線路脇で発見されたカドガン・ウェスト青年の死体から、重大な軍事機密、ブルース・パーティントン潜水艇の設計図が見つかり、そのうち重要な部分が行方不明だと言う。謹直な官吏であった筈のウェストは売国奴なのか?ホームズは、彼の死の意外な真相を明らかにする。

 正典もかなり完成度の高いエピソードなので、ドラマもほぼ原作通りの映像化になっていました。地下鉄が地上に出る地点で停車したところを狙って、窓から死体を屋根に載せる、というのはなかなか冴えたトリックだと思いました。当時の地下鉄の運行状況やスピードなら当然考えられるトリックなのでしょう。現在ではまず考えられないでしょうけど。冒頭、ホームズがうなっていたメロディが中世音楽だ、ということは正典を読んでわかりました。(笑)そう言えば、デスクの上に楽譜らしきものが散らかってましたよね。居間をうろうろするホームズが、新聞を読むワトスンの前を「遊んでくれないかな〜」とちらちらするのが、カワイイ。お子様。(笑)

 ホームズの台詞の一部がワトスンや警部、ジョンスン主任などに振り分けられていたりした点などを除いて、幾つか細かい異同を挙げていくと、まず、マイクロフトに付き添ってくる警部が、正典ではレストレイドなのに、グラナダ版ではブラッドストリート警部であること。コリン・ジェヴォンズさんのスケジュールが合わなかったのでしょうかね。ブラッドストリートさん、渋くて重みがあって、なかなか素敵です。最後、ウォルター大佐が逃げた時、「遠くまではいけませんよ」と片手を上げて挨拶するところなど、かっこよかったですねー。

 正典の「兄さんが自分でやればいいのに」「わしはそういうのは苦手なんぢゃ」のやり取り、兄弟の個性の違いを改めて確認する大事な部分だと思うので、切らないで欲しかったなあ。言わずもなが、ってことなのかしら。同じく、マイクロフトと警部も一緒にオーバーシュタインの家で待ち伏せするところで、正典の「マイクロフト・ホームズは手すりを乗りこえることなど絶対におことわりだと怒ったので、私は中へはいって玄関の扉をあけてやらなければならなかった。」(創元推理文庫『シャーロック・ホームズの最後のあいさつ』p.157〜p.158)という件りがめちゃくちゃおかしかったので、是非映像化して欲しかったです。今回、余りマイクロフトの変人ぶりが画面からはわからなかったのが残念。威厳のある政府のおエライさんみたいだった。声優が飄々とした松村達雄氏からやや堅い感じの久米明氏に交代したことも影響してますが。でも、久米氏の「シャーロック」という言い方が何か味があって好きなのですよ〜。

 ウェストベリー嬢を連れ出して、事件当夜、ウェストと別れた場所を確認するところも正典にはなかったですが、そこからウェストの勤務先が見えることを視覚的に示して、ウェストがそこに灯りが点いていることに気づき、異変を察して婚約者を置き去りにしたことが、視聴者に納得できるようにするための演出でしょう。あれでずい分事件の成り行きが分りやすくなったと思います。女性をワトスンに送らせた関係で、結果的にジョンスン主任と話をするのはホームズ一人になったのは、成り行きでしょうね。ウェストベリー嬢には、正典ではウェストの母親に会いに行ってたまたま出会ったようになってましたけど、何しろ生きている当人を最後に目撃した証人なので、グラナダ版のように直接会いに行くというのが自然でしょうね。

 オーバーシュタイン(『銀英伝』ファンは「・・・オーベルシュタイン?」と言いたくなってしまう・・・わかる人にはわかって)の家に侵入したところで、決め手となる新聞の消息欄が見つかる件り、ワトスンが、薪も石炭もない(字幕では「木炭がある」ってなってた・・・えーと。原語は“no wood and cole”ですよね?)暖炉に古新聞が燃やされていることに不審を抱いたことから、というのはグラナダのオリジナル。やっぱりワトスンの活躍を入れるためでしょうか。

 それから、今回の一番お気に入りの場面でもあるのですが、最初は泥棒まがいの行為に加わることを渋るワトスン(正典ではっきり「ぼくはいやだ」と言ってるのがおかしかった。一応自己主張してみることもあるのね)が、ホームズの頼みを承諾する場面、正典では立ち上がってその意を表すようになっていましたが、グラナダ版ではただにっこりと微笑むのですよね〜。うーん、キラー・スマイルだ、テッドさん。この時、一生懸命説得するジェレミーの顔がなんか必死で可愛かったです。(こればっか)

 あと、何か気になっちゃったのが、ホームズがやたらハドスンさんに辛く当たってるところ。最初に部屋が散らかってるのを注意されたのが気に障ったのかしら?テーブルを片付ける時、原語で“Please disappear!”て言ってるように聞こえたんですが、え?「消えて下さい」?あなた、反抗期の10代ですか?そんなキツいニュアンスではないのでしょうか?吹替えでは確か「早くして下さい」だったかな?

 「女王陛下の馬と兵隊を全部集めても役には立たないさ」というのは、『鏡の国のアリス』にも引用されている『マザーグース』の「ハンプティ・ダンプティ」ですねっ。注釈とかなくて出典がわかるのって、何か楽しい。

INDEX  放映リストへ