THE EMPTY HOUSE 第14話 空き家の怪事件

 監督: ハワード・ベイカー director...Howard Baker

 脚色: ジョン・ホークスワース dramatized...John Hawkesworth

 ゲスト: パトリック・アレン(セバスチャン・モラン大佐) Patric Allen as Colonel Sebastian Moran

 ホームズがライヘンバッハの滝の底に消えて3年。若いアデア卿が何者かによって殺害される事件が起き、ワトスンの目の前に死んだはずのホームズが現れた。語られる3年前の事件の真相と、ホームズを付け狙うモリアーティ一味の残党の影。ホームズの秘策とは?本エピソードより、エドワード・ハードウィックがワトスン役を務める。

 管理人指折りのお気に入りのエピソードでございます。(笑)もう素敵なシーンの連続。更には、ハードウィック・ワトスンの初お目見え。バーグ・ワトスンもハンサムで男らしくて十分素敵なのですが、エドワードの方が出演期間が長いし、出演エピにお気に入りの話が多いので、個人的には思い入れが強いんですよ。ジェレミーとの初ツーショットには、「ああ、ワトスンだ」とうれしくなってしまいました。(いえ、デヴィッドも大好きなんですよっ)

 で、今回NHK版のカットで一番頭に来たのは、ホームズが失神したワトスンを介抱する場面(衿元緩めたり、顔を撫でたりするのよ〜)、ワトスンがホームズの置手紙を額に入れて飾っていて、「僕の生涯の宝物だ」とホームズに見せると、ホームズが何とも言えない表情になる場面、ホームズがベーカー街に戻った件りを話す時に、「懐かしい友だちのワトスンがもう一つの椅子に座っていれば、と思った」と言った場面(ワトスンが「そうあって欲しいものだね」と返したのもええ。やっぱ連絡してもらえなかったことをちょっと根に持ってる?)。ほとんど、嫌がらせとしか思えん(怒)。

 あと、吹き替えに重大な誤訳がありましたねえ。TV放映を見てた時にも「あれ?」と思ったんですが、冒頭のワトスンの語りで、「あれからベーカー街を訪れていない」と言っているのに、画面ではワトスンは221bの前に立っている。案の定字幕では「ベーカー街を通りがかるたびに」となってました。あと、レストレイド警部が「オーストリア植民地の総督」って言ったような気がしたんですが。(もちろん、オーストラリアですね)まあ、例によって字幕の方がヘンな訳がごろごろありましたけど。フロレンスをフロレンスのままにしとくなっつーの。

 正典では、ワトスンはアデア事件については新聞で見て、ちょっと現場をのぞきに行った(そこで変装したホームズに会う)程度でしたが、ドラマでは、監察医として事件に積極的に関わっていくように変わってます。アデア事件の状況を画面で説明するためでしょう。ただ、検死法廷で判事が、一介の監察医に対しては、「ワトスン」という簡単な名前も覚えられないほど冷淡なのに、身分の高い貴族にはおべっかを言ってみせ、ワトスンが顔をしかめる、というのはちょっと作りすぎかも。

 でもやっぱり、今回の一押しは二人の再会シーンですねっ。先に言ったように、NHK版はいいところばっかり切ってますけど(怒怒)。ワトスンが「兄さんほどは信頼されていなかったんだ」とスネちゃうところ、正典にはなくて、「大人げない」という声もあるようですが、これくらいヘソ曲げてもバチは当たんないと思う。それに対して、ホームズがおろおろして「信頼してるよ」て言うのもええ。そして「君は優しいからね」と言った露口氏の声が何ともいえない響きがありました。「君はちっとも変わってないなあ」と言った時、ホームズが本当にうれしそうな顔をしたのもよかった。

 ホームズが3年間の間のことを語る時に、ワトスンがゴードンのことに言及したのが興味深かったですね。正典ではホームズが「ハルトゥーム(スーダン)に行った」としか出てこないのですが、ご存知のように、ベーカー街にはスーダンで戦死したゴードン将軍の写真が飾ってあって、ワトスンは彼を崇拝しているので、スーダンに立ち寄った、と聞けば当然話題にするだろう、というなかなかマニアックな判断によるものではないかと思います。さすがグラナダ版。マニアック過ぎてNHKは切っちゃったけど。(ただ、ゴードンって、中国の民衆反乱の鎮圧に助力したし、スーダンでもイギリスの植民地支配に対する現地住民の反乱で殺されたわけですから、アジア・アフリカの立場から見れば、イギリス帝国主義の手先なんですよね。ワトスンには悪いが)

 前回、「最後の事件」でワトスンがホームズの手紙を読んで泣いているのを、ホームズはどっかで見てたのはひどい、と怒ってましたが、今回の回想シーンで、遠くからワトスンを見守るホームズの表情が本当に辛そうだったので、「許すわっ」と思っちゃいました。(爆)ワトスンが立ち去ってしまうのを見送る顔がちょっと「行かないで」って感じだったし。この辺はやはり「ほんとは根はワトスン」(笑)なジェレミーの持ち前の優しさがにじみ出たところなんでしょうね。ワトスンの呼びかけに対して、思わず「ワト・・・」と答えてしまいそうになる、というのもジェレミーのアイデアだそうだし。

 正典では、空き家に向かう時間になるまで話をしたことになってますが、ドラマは船の中で全然眠れなかったというホームズが、診察室のベッドで仮眠を取るようになっています。(この辺、字幕はほとんど破綻してました)ワトスンが毛布を首までかけてあげるところがいいですねっ。

 それから、続く空き家での対決の場面。モランと格闘するホームズを助けようとして逆に跳ね飛ばされるワトスン(痛そ〜)、そのワトスンに襲いかかりそうなモランの首をマントの鎖で絞めるホームズ、モランはホームズを押さえ込むが、そこを背後からワトスンが銃で殴りつけてノックアウト!となかなか迫力ある立ち回りでした。ご苦労様。モラン大佐は正典の「哲学者の額と肉欲主義者の顎をもつ」という表現にぴったりのルックスでした。心なしかトラに似ているような。

 そして、最後のベーカー街での場面。説明はなかったですが、ハドスンさんが羽織っていたショールとワトスンが持っていたトルコ帽って、ホームズのお土産なんですよね。トルコ帽はともかく、多分フランス辺りでショールを物色するホームズって、笑える。でも、今回ハドスンさんは本当に可愛かったです。ホームズが帰ってきて死ぬほど驚くところ、ホームズ人形を楽しそうに動かすところ。ホームズを撃った弾丸を探し出していて、ホームズに「やはりあなたはここではなくてはならぬ人だ」と賛辞を受けるのはドラマのオリジナルですが、グラナダ版でのハドスンさんの位置を示していて、いい台詞ですよね。で、最後、正典ではホームズが言う「そこでシャーロック・ホームズ氏は・・・」という台詞をハドスンさんが言い、乾杯のシャンパンを持ってくる、というのがなかなか小じゃれてます。あと、モランがアデアを殺した理由については、正典ではホームズが語るようになっているのを、ワトスンが推測し、それをホームズが楽しそうにほめる、というようになっていたのもよかった。

 今回、鏡を使った演出が多かったですね。ハドスンさんが鏡に映ったホームズの姿を見て、生還を知るところとか。でも、空き家のところで、モランが部屋に入ってきた時、部屋の鏡に隠れているホームズとワトスンが映っていたんだが、あれは本当にモランからは見えないんでしょうか。なんか気になっちゃった。

 あと、正典にはホームズがモランについて語る時、人が急に悪に変わるのは血統のせいだ、という自論を披露する件りがあるのですが、さすがに現代の観点から見て問題ありすぎなので、ドラマではカットされてましたね。まあ、正典でもワトスンに「空想的だ」と批判され、ホームズもあっさり「僕も固執するわけじゃない」と言ってますけど。

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