THE FINAL PROBLEM 第13話 最後の事件

 監督: アラン・グリント director...Alan Grint

 脚色: ジョン・ホークスワース dramatized...John Hawkesworth

 ゲスト: エリック・ポーター(モリアーティ教授) Eric Porter as Professor Moriarty

 再三ホームズに陰謀を阻まれた「犯罪界のナポレオン」モリアーティ教授が遂に動き始めた。自らベーカー街に乗り込み、ホームズを脅迫したのである。身の危険を察したホームズはワトスンと共に大陸に逃れて身を隠そうとするが・・・。ホームズの「最期」を描き、発表当時大きな物議を醸した有名なエピソード。また、本エピソードを以って、デヴィッド・バーグはワトスン役を降板した。

 何分、ドイルがホームズに引導を渡したい一心で書いたエピソードなんで、正典のストーリー自体無理がありまくり。モリアーティの登場自体、取ってつけたみたいだし。だもんで、グラナダ版も放映時にはそれほど熱心には見ていなかったのですが、バーグ・ワトスンの見納めだし・・・、と思ってDVDを見ました。そうしたら、まあ、なかなかに心ときめく一編ではないですか。(笑)「最後の事件」っちゅうことで、スタッフも力入ってるなあ、という感じでした。

 オープニングからして、何やらテーマ音楽も悲壮感漂うアレンジ、サブタイトルのバックは白いバラが添えられたメッセージ・カードと、悲劇的ムードが漂っていたので、ちょっと笑っちゃいました。

 正典の導入部がメアリと結婚して別居中のワトスンのところにホームズが転がり込んでくる場面なので、例によって、別居してないグラナダ版では大幅なアレンジが求められることになります。また、正典の内容ではややドラマとしては薄くなると見たため、モリアーティ一味による「モナリザ」盗難事件を挿入し、前半は、ほぼドラマ・オリジナルに近い展開になっています。NHK版ではざっくりカットで、ワケ分かんなくなってましたけど。(苦)ルーヴルがどう見てもルーヴルに見えないところがご愛嬌?でも、模造画家を訪ねる場面なんか、なかなか面白かったです。同行したルーヴルの館長が、ヌード・モデルに愛想振りまくところとか、イギリス人のフランス人観がよく出てるよなあ。市場で張り込みしていて、花やオレンジを愛でるホームズがちょっと不思議だった。

 で、話の合間に、ワトスンがホームズの手の傷を手当てする場面(正典では傷を見せられただけで、治療する件りはなかったですよね)、例によってお気に入りです。(笑)ホームズが「痛!」ってとこが可愛い。原語版ではワトスンは何も言わないんですが、吹き替え版で「あ、ごめん!」と言ってるのもええ。(萌え)

 エリック・ポーターのモリアーティは本当に素晴らしい。モナリザを買いに来た蒐集家に見せた営業スマイルに、ベーカー街に乗り込んできた時の、ハドスンさんに「覚悟を決めた顔」と評された表情、滝の裏でホームズと対峙した時の威圧感、ホームズに襲いかかる時の獣じみた闘争心。正典ではほんとに取ってつけたみたいだった教授が、まさにホームズの宿敵にふさわしい確かな存在感を得たのは、彼の好演に負うところが大きいと思います。

 ちょっと気になったのが、モナリザの売り込みの時に教授と一緒にいた金髪で白いスーツの青年。クレジットではyoung art expertってなってましたけど、やたら美形だし、妙に中性的で、思わず「きょ、教授の愛人?」とか思っちゃったです。(ごめんなさーい)

 ワトスンがアーケードの出口で乗り込んだ馬車の御者って、正典ではマイクロフトなんですが、どう見ても兄の体型じゃないし、ホームズもドラマではそう言わないので、その設定はなしにしたんでしょう。あの無精者の兄が、いくら弟のためとは言え、そんな荒業を引き受けるというのは、正典に無理があると思うので、妥当ではないかと。でも、正典読んでても思ったんですが、モリアーティの一味はどうして兄には目をつけてなかったんでしょう?(正典なんか、ワトスンの家も張ってたのに)マイクロフトが兄だって知らなかったとしたら、モリアーティともあろう者が何たる迂闊だ。あと、乗合馬車を捕まえようとしているハドスンさんが可愛かったですねっ。

 後半の二人の逃避行(って言うと何か耽美〜)、スイスの風景が美しいですねー。行きたくなってしまった。空撮も入れちゃったりして、金かかってるなあ。正典ではモリアーティを取り逃がしたという知らせは、フランスのストラスブールでロンドン警視庁から受け取ることになってますが、ドラマではスイスに入ってから、マイクロフトによってもたらされることになっています。正典は問い合わせの電報に対する返信、という形になっていて、やや慎重さを欠く対応なので、予め立ち寄り先をマイクロフトだけに知らせておいて、連絡してもらうという形にしたのでしょう。この時、ホームズはワトスンにイギリスへ帰るように言いますが、ワトスンが「君を置いてはいけない」と言うと、何ともうれしそうな表情になりますよね。「そう言ってくれると思った」って感じで。ワトスンの同行について、正典では30分の議論で決着するところを、実に説得力ある形で映像化していると思います。今回の一押しのシーンですね。

 クライマックスも近いマイリンゲン村の場面。ライヘンバッハの滝を望む風景が美しい。ホームズとワトスンが楽しげに談笑しながら宿に入る場面がよいです。そのあと、宿の窓からうれしそうに景色を眺めるワトスンが可愛かったっス。窓辺の花のにおいを嗅いだりして、「花とおじさん」って感じでした。(笑)

 そして、クライマックス。モリアーティの罠に気づいて、必死で走って滝に戻るワトスン。ホームズの手紙を読んで泣いてしまうワトスンには思わずほろっとしてしまいました。でも、そんなワトスンを、ホームズはぴんぴんしていて、どっかで見てるんだと思うと、ちょっとムカ。ひどい男だ。ラスト、「形見」のシガレット・ケースを愛しげに撫でてから、最後の事件のペンを執るワトスンは、本当に可哀そうだよ〜、いろんな意味で。(泣)でも、最後ということもあって、今回、バーグ・ワトスンは本当によかったです。スタッフも見せ場を作ってくれたのでしょうね。

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