THE RED-HEADED LEAGUE 第12話 赤髪連盟

 監督: ジョン・ブルース director...John Bruce

 脚色: ジョン・ホークスワース dramatized...John Hawkesworth

 ゲスト: ロジャー・ハモンド(ジェイベズ・ウィルソン) Roger Hammond as Jabez Wilson

      ティム・マッキナリー(ジョン・クレイ) Tim Mcinnerny as John Clay

      エリック・ポーター(モリアーティ教授) Eric Porter as Professor Moriarty

 赤毛の質屋の主人が巻き込まれた奇妙な事件。「赤髪連盟」なる組織のメンバーに加えられ、ごく簡単な仕事に高い報酬が支払われるという。ところが、ある日「赤髪連盟」は忽然と姿を消してしまった。納得のいかない質屋の依頼を受けたホームズは、何者かが質屋を家から引き離したかったのだ、と推理した。果たしてその目的とは?

 個人的に、正典の中では思い入れの強いエピソードです。初めて読んだ正典が、家にあった世界名作全集に収録されていた「緋色の研究」、「赤髪連盟」、「瀕死の探偵」で、「緋色の研究」は、「ルーシー、かわいそう」という印象しか残ってないし、「瀕死の探偵」はワトスンが振り回されているのが子供心に気の毒で(爆)、ホームズ物として一番好印象だったのが「赤髪連盟」だったんですよね。気持ち悪い殺人もないし、展開も意外性があって楽しいし。

 ただ、グラナダ版に関しては、DVDブックレットでも強く批判されている点もありますけど、モリアーティを絡ませたことについて、ちょっと首をかしげてしまうところがあります。もともと、ちょっと気の利いた小品、といった趣のエピソードで、この究極の敵役を絡ませるには、スケールが小さめだし、雰囲気が明るすぎるように思えるのですが。この次がいよいよ「最後の事件」なので、予め教授を登場させておきたかったのはわかりますけど、ドラマ化されなかった「恐怖の谷」のような、国際的なスケールを持った陰惨な事件こそ、「犯罪界のナポレオン」にはふさわしかったように思えます。それに、個人的に正典のクレイのキャラが気に入っていたので、(「僕に話しかけるときは敬語を使いたまえ」というところが)彼が単なる下っ端だった、という設定はちょっと面白くないです。

 それから、ドラマの構成でちょっとどうかな、と思ったのが、プロローグの部分で、銀行に金が運び込まれ、それをクレイが見ている、という場面を挿入してしまったこと。どうせ、視聴者の多くは正典を読んでいるだろうとは思うのですが、このエピソードの魅力は、市井の人のごく身近で起こった奇妙な出来事の謎解きが、大きな犯罪につながっていた、という意外性だと思うので、先にそれを見せちゃうってのはどうだろう。

 今回、NHK版のカットで最も不満だったのは、質屋がベーカー街に依頼に訪れた場面の最初の方を切ってしまったこと。買い物帰りか何かか、大きな包みを抱えて居間に入ってきたワトスンが、来客があるのに気づいて、遠慮して出て行ってしまったところを、ホームズがソファを軽々と飛び越えて引きとめに行く、(正典は、「ボヘミアの醜聞」に続く第2話なので、新婚のワトスンがホームズを訪ねてきた、という設定でしたが)その時のブレットの身のこなしが、それはそれは優雅なのですよ。ワトスンを引き止めたい気持ちが思いっきり出てたのもよかったし。(笑)あと、有名な「パイプ3服分」も削ったわね。(怒)

 銀行重役のメリーウェザー氏が正典よりやな奴になっていて、何かとホームズを「アマチュア」と馬鹿にするので、ワトスンやジョーンズ警部(正典ではピーター・ジョーンズなのだが、クレジットではアセルニー・ジョーンズになっていて、しかも「四人の署名」のアセルニー・ジョーンズとは別人っぽい、というのがややこしい・・・)がムキになってホームズを擁護するのがよかったです。メリーウェザーが「土曜の夜にブリッジをやらないのは初めて」と言った時、後ろにいたジョーンズはあきれた、という感じで苦笑するんですよね。こんなにホームズの味方をしてくれてるのに、酷評するホームズって、ヒドい。メリーウェザーの台詞、「捕らえてみれば雁一羽」というのを「泰山鳴動して鼠一匹」と訳した吹き替え版のセンスはさすがです。あと、正典ではいったん家に帰ってから訪ねてくることになっているワトスンが、(もちろん別居してないので)黒板に地図を描きながらホームズと一緒に警部たちを待っているところ。ホームズがワトスンの描いた地図を誉めるのが、よい。

 質屋に逃げ込んだ一味の一人(正典では赤毛のダンカン・ロスだったのだが、グラナダ版では赤髪連盟の事務所にいた別の男だった)が待ち伏せしていた警官と大乱闘をするところ、「ああ、イギリスのお巡りさんは拳銃を持ってないから大変ね」としみじみ同情しちゃいました。アメリカだったら(日本でも?)ズドンと撃って終わりやねん。ヘタすりゃ射殺。

 細かいとこですが、サラサーテ役の人(本職のヴァイオリニスト?)が中学の音楽の教科書に載っていたサラサーテの肖像によく似てたので、ちょっと笑っちゃいました。

 最後、ホームズがワトスンに事件のつながりを解説する場面は、正典はベーカー街の部屋で一杯やりながら、だったのですが、グラナダ版では、ワトスンが質屋にお金を届けに行った後、本屋で買い物をし、包んでもらうのを待ちながら、とアレンジされていましたが、これは二人の様子をじっと見つめる教授、という絵を入れるためでしょう。この時、ホームズが言った「僕の人生は、平凡な存在から抜け出す努力の連続」という台詞が、この後の展開を踏まえて「嵐の前の静けさ」を感じさせるものになっていたようです。で、妹と二人でミステリ・チャンネルでの放送を見ていた時に、彼女がチェックを入れたのが、本屋の前でホームズからシガー・ケースを渡されて中から煙草を一本取ったワトスンがそのまま歩き出して、下宿の前に来た時に、ケースをホームズに返し、もらった煙草を口にくわえると、ホームズがすぐに気づいてワトスンの煙草に火を点ける、という一連の動き。ぼーっとしてると見逃してしまうのですが、二人の関係を実にさりげなく描いていて、グラナダ版らしい描写だったと思います。

 それにしても、エリック・ポーターは、パジェットの挿絵の教授にそっくし、ですね。

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