THE RESIDENT PATIENT 第11話 入院患者

 監督: デヴィッド・カースン director...David Carson

 脚色: デレク・マーロー dramatized...Derek Marlowe

 ゲスト: ニコラス・クレイ(パーシー・トレヴェリアン) Nicholas Clay as Doctor.Percy Trevelyan

      パトリック・ニューエル(ブレシントン) Patrick Newell as Blessington

 若き医師トレヴェリアンの出資者であり、入院患者でもあるブレシントンは、ある日を境に何者かの影に怯えはじめる。そんな矢先にトレヴェリアンを訪ねてきたロシア貴族の親子の正体は?トレヴェリアンの恐怖の正体とは、そして彼の運命は?

 いくつかある犯人を捕らえそこなうエピソードの一つ。まあ、強盗仲間同士の内輪もめで、被害者も決してまっとうな善人ではない、ということで、さほどの後味の悪さはありません。ただ、アガサ・クリスティの短編にも同じような結末がありましたが、「犯人の乗っていた船が沈んで全員絶望」というのは、巻き込まれた他の乗客、乗員がいい迷惑じゃん、とか思ってしまうのは私だけ?「五つのオレンジの種」は、船に乗ってる全員が犯人一味だからまだしも。

 今回、正典との最大の異同は、自称ロシア貴族親子が訪ねてきたのは2回だったのを1回にしたことと、正典ではその時点からサットン殺害を目的としていたのに、グラナダ版では、嫌がらせだけが目的であったこと。一味がサットンを殺すにあたって、時間をかけていることを考えれば、トレヴェリアンの注意を引いておいてその隙に、というのは少々苦しいように思うので、筋の通った変更だと思います。

 その分、新たに入れられたグラナダ版オリジナルの場面としては、NHK版では切られてしまいましたが、冒頭の床屋の場面。正典ではホームズとワトスンは散歩に行くのですが、グラナダ版では、床屋で髪をカットするワトスンの横に、大掃除だと言ってハドスンさんに部屋を追い出され仏頂面のホームズが座って待っている、という場面に変わっています。そして、有名な、二人が腕を組んで街を歩く場面に移っていくわけです。正典のシドニー・パジェットの挿絵にもあり、別段妙なイミはないようなのですが(爆)、でも、ジェレミーがデヴィッドの腕に手を回している絵は、やはり見ていてドキドキします。(笑)ワトスンの鼻唄も素敵。

 細かいところなのですが、個人的にいいなあ、と思った変更点は、トレヴェリアンの馬車を見て、正典ではホームズが一人で語るところを、ワトスンとの掛け合いにしたところ。「医者だな」「開業して間がないが、繁盛しているようだね」「相談に来たんだろう」「いいところに帰ってきたな」。なかなかテンポがよくて心地よかったです。ワージントンの銀行強盗について説明するのもワトスンになってましたね。

 それから、ワージントン事件の新聞記事を探すのにホームズは部屋中をひっくり返したのに、ワトスンは一発で見つけてしまうところ。ホームズが事件に関する書類のありかを把握していない、というのは少々おかしな話ではありますが、「世話女房」(爆)ワトスンの本領発揮ということで、結構好きなシーンですね。

 冒頭のサットンの悪夢の場面で、金庫の蓋に描かれた東洋の龍の模様が、サットンの寝かされた、金貨の詰まった棺の内側の中張りの模様と同じだったのが何とも意味ありげで面白かったですね。ホームズが残された葉巻から部屋に3人の男がいたことを推理する件りは、字で読むよりも説得力がありました。

 トレヴェリアン先生は、正典では疲れた感じの冴えない外見で描かれていましたが、グラナダ版で演じたクレイは、背も高くてなかなかの男前。「酒癖は悪いか」と訊かれて怒った顔が無闇にかっこよかったっス。

 第2シリーズに入ってから、どうもラストを「ギャグ落ち」でしめたがる傾向があるような気がするのですが、今回のタイトルをめぐるやりとりにもそんな傾向が見えるような。新聞を見ながら帰ってくるワトスンが、ホームズのヴァイオリンの音を聴いて顔をしかめるところからしてそんな感じ。「ブルック街のミステリー」って、そりゃあんまりワトスンのセンスではないような気がするんですけど。日本語版で、ワトスンが「ブルック街の怪事件でもいいじゃないか」とぶつくさいいながらも、結局「入院患者」と直す、とアレンジしていたのは、わかりやすくなってよかったです。

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