THE GREEK INTERPRETER 第9話 ギリシャ語通訳

 監督: アラン・グリント director...Alan Grint

 脚色: デレク・マーロー dramatized...Derek Marlowe

 ゲスト: アルキス・クリティコス(メラス) Alkis Kritikos as Mr.Melas

 ホームズに兄がいた?驚くワトスンに初めて紹介されたマイクロフト・ホームズは、弟に輪をかけた天才で変人だった。そのマイクロフトが持ち込んだ、ギリシャ語通訳メラスの奇妙な体験話。何者かに囚われ、拷問を受けているギリシャ人クラティディスを、ホームズは果たして救い出すことができるのか?

 マイクロフト初登場、ということでかなり有名なエピソードの一つ。グラナダ版では、終盤の部分にかなり大きな変更を加え、その結果マイクロフトが大活躍します。この点に関してやや批判的な見解もあるようですが、(兄があんなに活動的なのはヘンとか)正典を改めて読み返すと、それもむべなるかな、といった印象です。これをそのまま映像化してしまったら、相当な消化不良になること間違いなし。犯人を取り逃がしてしまった(他のエピソードにも結構ありますけどね)という点だけでなく、ホームズは何をしたんだ?って感じです。事件の真相はワトスンが解いちゃったし、クラティディス兄妹がいる場所がわかったのは、マイクロフトが出した広告に応じてきた親切なダベンポート氏が教えてくれたからだし、メラスが助かったのは、むしろワトスンが医者として頑張ったおかげな気がするし、結局クラティディスさんは助けられなかったし。

 ワトスンが時刻表を見つけ、兄が時刻表を見ずして問題の汽車が止まる駅と時間を言い当て、なぜかグレグスン警部がメラスさんの世話をする羽目になり、ホームズ兄弟とワトスンが汽車に乗り込み、車掌から犯人一行のいるコンパートメントを聞き出し、といった展開は、なかなかスムーズでテンポがよく、見ていて気持ちよかったです。でも、ラティマーが進退窮まって汽車から飛び降りてしまう辺りは???。(ラティマーを助けようと前に出たワトスンをホームズがぐいと引き寄せるところが今回の萌え。(笑))それに人が一人汽車から落ちたのに誰も気づいて騒がないのもヘンだよなあ。夜だからそんなものなのか?個人的には最後の兄のオイシイとこどりは、なかなか爽快で好きですね。ごくたま〜にスイッチが入ったように働き出す兄、というのも悪くないんじゃないかなあ。シャーロックだって電池が切れてる時があるやん。薬やってる時とか。

 あと、グラナダ版での目立つ変更点としては、ソフィの扱い。正典では無理やり連れて行かれて、ヨーロッパでケンプとラティマーを殺したらしい、ということになってますが、正直かなり不自然ですよね。兄を殺した男と知っていて、それでも愛さずにはいられない女の性〜って方がドラマティックだし、納得がいく。ただそれを「冷酷」と断じてしまうホームズは、ちょっとらしくない感じ。ホームズは別に女性に厳しいんじゃなくて、女性を「浅はか」「感情的」とバカにしてるだけなんですよね。ちょっとその辺りに違和感がありました。

 それと、メラスのイメージもかなり正典とは違いますよね。正典では「背のひくいふとった男」と述べられているのに、メラスを演じたクリティコスはすらっとした体格で、南欧系にしては色白。多分、外見のイメージよりも、英語もギリシャ語もペラペラって方を優先してキャスティングたんでしょうね。正典では、ホームズはメラスのことを「度胸のない男」と言ってますが、悪人の監視下にありながらクラティディスのことを聞き出そうとしたり、脅されて口止めされていたにも関わらず、マイクロフトに打ち明ける、というのは「度胸のない」人の行動とは思えません。ので、グラナダ版ではホームズもそういったことは口にしてませんね。

 今回のNHK版最大のカットは、冒頭、ベーカー街の居間でホームズがワトスンにマイクロフトのことを打ち明け、引き合わせるためにディオゲネス・クラブに連れて行く(正典では徒歩なのにグラナダ版では馬車だった)箇所。全部ワトスンの語りで済ましちゃってました。ホームズとワトスンの二人の場面を削られると、他の場面を削られるより頭に来るのはなぜ。ワトスンが興味しんしんでクラブの中を歩き回るのが可愛い(笑)し、「おいおい」って素振りのホームズもいい。談話室の窓からホームズ兄弟が通行人の素性当てをやっている場面、梯子に乗っているのが面白いですね。兄弟の掛け合いは、吹き替えより原語の方がリズミカルでしたね。話し終えたメラスにお水を用意してあげたのはワトスンの気遣いでしょうか?正典にはない場面ですけど。ちなみに、居眠りしていたマイクロフトをシャーロックが手をパンと叩いて起こすのもドラマのオリジナルですけど、兄弟の関係を暗示していて面白かったです。典型的な、のんびり長男としっかり次男って感じ?

 今回、ホームズの名声が広まっている、という場面が結構目だってましたね。汽車の場面では特に車掌から情報を聞き出す時や、ラティマーを追い詰めるところで、これが有利に働いてましたが、もしかして前の回でホームズがワトスンの本をけなしたことのフォロー?おかげで助かってるじゃん、って感じ。(爆)ホームズもあからさまに得意げだし。子供。

 個人的に、シリーズ通して、日本語訳は字幕より吹き替えの方が気に入ってます。台詞まわしなどは、現行のどの翻訳よりもいい、と思うくらい。時々誤訳もありますが、それなら字幕だって同じだし。字幕は字数制限もあるのでしょうが、ちょっと首を傾げたくなる表現が目に付きすぎです。ホームズに関しては、字幕で原語を聞くより、露口氏の声で吹き替え版の台詞を聞きたい、と思う場面が結構ありますね。バーグ・ワトスンは、圧倒的に原語(爆)だけど。ただ、今回1点どうしても許せない訳が吹き替え版でありました。汽車のシーンで、ホームズとワトスンが客室を出る時、眠っているマイクロフトを起こそうとしたワトスンに、ホームズが「年寄りは連れて行かない方がいい」と言ってましたが、原語では「危ないことは二人で」(字幕)と言ってるんですよ〜。おそらく、日本語版製作スタッフは「マイクロフトが足手まとい」というニュアンスで捉えたのでしょうが、やはりここは「大事な局面はワトスンと二人だけでやりたい」という意味だと思うのですよ〜。わかっとらん。

 ちなみに、オールド・アニメ・ファンとしては、今回ゲストの吹き替えの声優陣、野田圭一氏(ケンプ)、曽我部和行氏(ラティマー)、潘恵子氏(ソフィ)、戸谷公次氏(クラティディス)という顔ぶれは何とも懐かしかったです。(年がバレる?)アニメと言えば、ケンプは「天空の城ラピュタ」のムスカにそっくりですね。(爆)

 一つ気になったんですが、最後のシーン、なんでホームズは、ワトスンやマイクロフトと違う方向に歩いていってしまったんでしょうね?

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