THE BLUE CARBUNCLE 第7話 青い紅玉

 監督: デヴィッド・カースン director...David Carson

 脚色: ポール・フィニー dramatized...Paul Finney

 ゲスト: フランク・ミドルマス(ヘンリー・ベーカー) Frank Middlemass as Henry Baker

       ケン・キャンベル(ジェームズ・ライダー) Ken Campbell as James Ryder

       フランク・ミルズ(ピータースン) Frank Mills as Peterson     

 クリスマスを目前としたある日、ホテルの部屋から伯爵夫人の貴重な宝石「ブルー・カーバンクル」が盗まれた。夫人の部屋で作業をしていた配管工ホーナーが容疑者として逮捕されるが、肝心の宝石が見つからない。
 一方、ベーカー街のホームズのもとにガチョウと古帽子という奇妙な落し物が持ち込まれる。なんと、そのガチョウの胃袋から「ブルー・カーバンクル」が見つかったのだ。宝石はどういった経緯でガチョウの胃袋に隠されたのか?ホーナーは無実なのか?

 邦題の「青い紅玉」については、いろいろ議論のあるところですが、もともと「赤い石のはずなのに青い色をしているのが珍しい」ので、意味としては全く問題ないと思います。ただ、個人的には「青い、赤い石」みたいでちょっと座りがよくない感じ。と言って、最近出てきた「青いルビー」とか「青いガーネット」とかは、「カーバンクルとは違う石なんじゃないか?」って感じで、また違和感がありますね。だから、字幕のように「青いざくろ石」というのが、品がよくていい表現だと思うのですが。宝石の名前として余り一般的ではないというのが欠点かも。

 原作もちょっと気の利いた小品といった趣きの一編ですが、グラナダ版ではクリスマス・ムードもいっぱいの、小洒落た作品に仕上げられています。伯爵夫人や、ホーナーの家族は原作には直接登場しませんし、ガチョウ・クラブを企画したパブの主人とベーカー氏との暖かなやりとリや、店先に座る女乞食に、自分も貧しいのにベーカー氏が施しをやったり、パブの主人が「中で暖まりな」と店に入れてやる描写もドラマ化で付け加えられた場面。貧しくても幸せそうなホーナー一家や情に厚いパブの主人に対し、傲慢で、お金持ちなのにちっとも幸せそうに見えない伯爵夫人、という図式は、ちょっとディケンズの『クリスマス・キャロル』を連想させ、クリスマス気分を高めています。

 もう毎度のことなので、いちいち指摘するのも面倒(汗)なのですが、原作では、またまた別居中のワトスンがベーカー街を訪ねるところから始まっているので、グラナダ版では変更されてます。(正典って、思った以上にワトスンが別居してる話が多い)で、この変更された場面が楽しくて、朝早く、身じまいをしっかりして買い物に出かけるワトスンと入れ違いにピータースンが221Bを訪れると、ホームズはまだ寝てる。(爆)起きぬけで髪ぼうぼうなブレット・ホームズは、ちょっと若々しくてカワイイですね。くす。挙句に帰って来たワトスンの第一声は、「ホームズ、起きてるか?」(爆爆)起きてるけど、まだ寝巻き。

 今回は、話の内容の関係で、いつもより、221Bでホームズとワトスンが話をする場面が多かったですね。NHK版はざっくりカットしてくれちゃってますけど。古帽子についてのホームズの推理をほとんどぶった切っちゃうってのはどうだろう?あのつなぎ方はうまかったけど。(苦笑)二人が寄り添って「ブルー・カーバンクル」について語り合う場面が、今回の一番のお気に入り。ドアがノックされた途端、ぱっとデスクの方へ飛んでいく二人がカワイイですわ。

 それから、ガチョウの調査の場面のワトスンが無闇にカワイかったんですけど。(今回はこればっか)「寒いから明日にしよう」とムズがったり、(「それなら南へ向かって進め」っていうホームズの突っ込みもナイスだ)打ち合わせもないのに突然ホームズに振られては、一瞬“what?”と聞き返したり、「そっちのダンナにも払ってやりな」とガチョウ屋に言われて、おねだり姿勢になったり。あと、ピータースンに新しいガチョウを買ってくるよう命じるところで、ホームズがワトスンに「金を渡してくれ」というのがおかしかった。奥さんかい。

 ラスト、ライダーを見逃してしまったホームズに対して、ワトスンが異議申立てをするグラナダ版オリジナルの場面。バーグのワトスンは静かな口調で「この結末は意外だ」と言い、それによって激高するホームズを案じるように見守る表情が生きていて、なかなか切ないシーンになっているのですが、NHK版は、長門氏の怒鳴り付けるような口調で台無し。二人が口論したような印象で終始してしまってます。これまで、この場では吹き替えの声については余りコメントしなかったのですが、バーグのあの素晴らしい美声に何故どちらかと言えば「ドラ声」の長門氏を当てたのでしょうか。ちょっと納得いきません。露口ホームズのように、俳優の地声と印象が違う声でも、独特の雰囲気を醸し出すようなキャスティングならむしろ日本語版独自の味になるのですが、残念ながら長門ワトスンは重大なキャスティング・ミスと言わねばならないでしょう。

 同じくラスト、原作ではそのまま二人は食事にかかってしまうのですが、グラナダ版では、食事の前にワトスンの提案でホーナーを釈放するために警察に出かけ、その結果、ホーナーが愛する家族のもとに戻る場面で終わるのが、ワトスンの優しさも出ていてよかった。(BGMを差し替えてしまうのはどうなんだ?NHK)ベーカー氏が訪ねてきた場面でも、盗難事件と無関係だとわかると、ホームズは無関心になってしまうのに、ワトスンは最後まで気遣いを見せますよね。

 

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