THE CROOKED MAN 第5話 曲がった男

 監督: アラン・グリント director...Alan Grint

 脚色: アルフレッド・ショウネシー dramatized...Alfred Shaughnessy

 ゲスト: ノーマン・ジョーンズ(ヘンリ・ウッド) Norman Jones as Henry Wood

      マイケル・ラムズデン(ヘンリ・ウッド、青年時代) Michael Lumsden as Young Henry Wood

       リサ・ダニエリー(ナンシー・バークレー) Lisa Daniely as Nancy Barclay

      キャサリン・ラベット(ナンシー・バークレー、娘時代) Catherine Rabett as Young Nancy Barclay

      デニス・ホーソーン(ジェームズ・バークレー大佐) Denys Hawthorne as Col.James Barclay

      ジェームズ・ウィルビー(ジェームズ・バークレー、青年時代) James Wilby as Young James Barclay

      ポール・チャップマン(マーフィ少佐) Paul Chapman as Major Murphy

 栄光あるマローズ連隊の連隊長、バークレー大佐が私邸で急死した。直前まで口論していた夫人に殺害されたのか?消えた部屋の鍵の行方は?意識不明の夫人の口走ったデイヴィッドとは何者なのか?事件の奥には、30年前、植民地インドで起こった悲劇があった。

 ストーリーは、概ね原作のままですが、前半の組み立てにかなりの変更が加えられています。原作はワトスン結婚数ヶ月後の設定で、ホームズが深夜、ワトスン夫妻の新居に押し掛けるという全くもって不粋な場面から始まっています。そして、事件のあらましとヘンリ・ウッドを探し当てるまでのてんまつは、その場でホームズからワトスンに語られる、という形になっています。クドいようですが、ワトスンに結婚歴はないことになっているグラナダ版では、これをそのまま採るワケにはいかないので、依頼は、軍隊のコネでワトスン経由で持ち込まれ、当初からワトスンは同行、視聴者はホームズの捜査を同時進行で見守る形に改められています。

 で、冒頭、マローズ連隊の駐屯地を訪れる、ドラマのオリジナルの場面。衛兵と肩を並べて得意そうに歩くワトスンの後ろをサエない顔でついて行くホームズ、という図式がちょっと笑えたし、連隊長の執務室(?)に通された時も、意味もなく不機嫌で、「もしかして、ホームズって軍隊嫌い?」とか思ってしまいました。(笑笑)堅苦しく形式ばった雰囲気に馴染めなかったのかもしれません。その上、意味もなく部屋をうろうろする挙動不審さに、ハラハラするワトスンの表情は、ほとんど保護者。(爆)

 それから、バークレー夫妻やマーフィ少佐の描き方にも原作より陰影をつけてますね。事件以前に夫妻の間に諍いがあったとか、少佐が夫人に想いを寄せており、自分を飛び越して昇進した大佐に余り好意を抱いていなかったとか。原作より、少佐がエラそーだし。

 あと細かい変更点としては、夫人がウッドと再会したのが、原作では道端のガス灯の下、ということになっていましたが、夫人が手伝っていた慈善施設をウッドが衣服を求めて訪れたというように変更されています。いくらなんでも、30年ぶりに会う人を夜目で見分けるのは、ちょっと無理でしょうから、妥当なアレンジでしょう。それと、ウッドを探し当てるのに、原作ではホームズはかなり手間をかけて捜査をし、ワトスンを連れにロンドンに戻っている間、イレギュラーズの少年に見張らせて、といったことをしていますが、グラナダ版はその辺をテンポよく、話を聞いたミス・モリスンが彼のこと知っていたことにし、酒場で直接彼を捕まえるようにしています。これで、ウッドの置かれている状況も、言葉での説明なしに伝わったようです。

 クライマックス、ウッドが語るインドでの出来事、ナンシーとの再会と、バークレー大佐の死の真相は、大変心を打たれました。ナンシーはずっとウッドと交換したロケットを首にかけているのですよ。おそらくは父親に強いられて仕方なくバークレーと結婚したものの、本当はずっとウッドを愛し続けていたのでしょう。罪の意識にさいなまれ続け、ウッドの姿を目にした途端、ショック死してしまったバークレーも決して根っからの悪人ではなかった。強靭なウッドに対して、余りに弱い人間であっただけなのです。そこに展開したのは、人間の悲劇、愛の悲劇であったとしか言い様がありません。ウッドが意識を失うナンシーを抱く場面では、涙が出そうでした。(ただ、インドの回想の場面って、インドの人はどう思うのかなーってつい考えちゃう。イギリス軍は、セポイの反乱をそれはそれは残虐な方法で鎮圧したのですよ。反乱兵を生きたまま大砲で撃ち上げたり。)

 でも、大佐が見た窓のところに立つウッド、という絵は、ちょっとB級ホラー?背景に雷が鳴ってたりして。(笑)バークレー邸で使用人に話を聞く時、火かき棒をかついで暖炉の前に立つホームズが、めちゃくちゃかっこよかったです。ほう。(ため息)あと、若い頃のナンシーを演じた女優さんがめっちゃかわいかった。

 しかし、このエピソードの一番のお気に入りは終幕。「デイヴィッド」の意味をホームズが解説すると、聖書を確認したワトスンが、「調べたろ」と看破する場面。(もちろん、ドラマのオリジナル)「踊る人形」でも指摘しましたが、グラナダ版ではこういう、ワトスンがホームズに一矢報いる場面をところどころ入れていて、それがなかなか素敵な味わいになってます。

 

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