賀茂保憲



史実

917〜977。平安時代の陰陽家。賀茂忠行の子。
 暦博士(従七位上)、天文博士(正七位上)を経て陰陽頭(従五位下)、主計頭(従五位上)を歴任、最高位は穀倉院別当(従四位下)。

 父賀茂忠行に師事した安倍晴明の兄弟子であるという説と、保憲が師であったという説もあり。日本史の立場では、賀茂氏の陰陽道は、天文・暦道は
保憲の子光栄に伝えられて勘解由小路流へ、陰陽道は晴明に伝えられて土御門流になったとされているようなので、意外と師匠説が有力なのではない
かと思われます。晴明との年齢差が4才しかない、という点も、陰陽家の子に生まれて幼い頃から英才教育を受けていたはずの保憲と、ある程度年齢が
いってから勉強を始めたであろう晴明とでは年齢差以上にキャリアの差があったのではないかと推測されますので、師弟でも問題ないのではないかと思う
んですが。

 ちなみに、保憲の娘は、歌人として知られたらしく、『賀茂保憲女集』という歌集を残しています。


年ごとに人は遣らへど目に見へぬ心の鬼はゆく方もなし
(毎年、人は鬼やらいをするけれども、目に見えない心の鬼はどこにもゆくところがない。)


という何とも意味深な歌を詠んでいて、目に見えない鬼の存在を感じることが出来る能力を持っていたのかしら、と想像するとちょっと面白いですね。
『陰陽師』

 最初、映画のサイトで「呼ぶ声の」を読んだ時は、「晴明とキャラがかぶってるじゃん」とちょっと首をかしげてしまったのですが、『龍笛ノ巻』で「首」を読み、
納得しました。獏版の保憲は、マイクロフトなのですね。

 ・・・と言っておわかりにならない方のために説明いたしますと、マイクロフトとは、かの名探偵シャーロック・ホームズの実の兄で、弟以上の才能を持ちな
がら、ズボラで出不精なので、自ら犯罪捜査を行ったりはしない、という人物なのです。ほうら、保憲さまでしょう?


晴明「保憲さまなれば、もう、その首たちが二度と現れぬようにすることも、おできになれましょうに―」
保憲「できるさ(中略)地べたに這いつくばって何かを捜したり、あちらこちらへ出かけて行って、よろしく話をつけてきたりということが苦手なのさ」
(「首」『陰陽師―龍笛ノ巻』p.97〜98)

シャーロック「どうして自分でやらないのです、兄さん?あなたには、ぼくくらいの眼力はあるのです。」
マイクロフト「そうかもしれない。(中略)あちこち駆け回るとか、鉄道監視員に反対尋問するとか、レンズを目にをあててはいつくばるとか−そんなことは得
手じゃない。」
(「ブルース・パーティントン設計書」『シャーロック・ホームズの最後のあいさつ』創元推理文庫p.128)


 ・・・そっくりじゃん。(こんなに似てるとは思わなかった。)
 晴明と博雅をホームズとワトスンにたとえることは、獏先生ご自身も、文庫版の『飛天ノ巻』のあとがきでされているので、もしかしたら、保憲のキャラ付け
も、マイクロフトを意識されているのかもしれません。



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