『古今著聞集』第四二九
博雅の三位の家に盗人が入った。三位は、板敷きの下に逃げ隠れた。盗人が帰り、その後、這い出て家
中を見たところ、残された物はなく、みな盗られてしまった。篳篥一つを置物厨子の上に残してあったの
を三位が取り上げて吹かれたところ、出て去っていった盗人は、遠く遥かにこれを聞いて、感情が抑えが
たくなって、帰って来て言うことには、「只今の御篳篥の音を承るに、しみじみと尊くいらっしゃって、
悪心はすっかり改まってしまいました。盗った物は全てお返しいたします。」と言って、みな置いて出て
行った。昔の盗人は、またこのように優雅な心もあったのだ。※1
博雅ん家には博雅しかいなかったのかい、とか、博雅ん家には泥棒が一辺に一人で持って行けるくらい
しか家財が無かったんかい、とか、いろいろ突っ込みどころ満載。その辺りを整理して、二次小説「愀歌」
を書いてみましたが、いかがなもんでしょう。
※1 『続教訓抄』の類話では、最後の件は「このことについて考えるに、功績があれば必ず徳が備わるも
のだ」と博雅を賞賛する言葉になっています。こっちの方がいいよねえ。泥棒も感動するほど博雅の篳篥が
素晴らしかった、ということなんですもの。