『陰陽師 瘤取り晴明』



「おい、博雅、よかったな。おまえは啖われずにすみそうではないか」
 他人ごとのように、晴明は博雅に声をかけた。
「せ、晴明!?」
 博雅は、どうしてよいのかわからずに、晴明を見やった。
「晴明よ。おれは、おまえを助ける術を持たぬが、ここで共に死ぬる覚悟くらいはあるぞ。我ひとり、助かろうとは思わぬ―」
「好い漢だなあ、博雅―」
 晴明が微笑した。
「ばか、こういう時に、何を言っているのだ、晴・・・」

(文芸春秋社刊単行本p.134)



 いや、ほんとに博雅は好い漢ってゆーか、可愛すぎるぞ、おまい、ってゆーか。晴明さまこそ、よかったですねえ。博雅にこんな
ふうに言ってもらえて。ってゆーか、言わせようとしてる?

 昔話「瘤取り爺さん」が実に巧みにアレンジされていて、なかなか洒落た小品、といった趣きで。朱呑童子さまはご登場だわ、
黒川主がゲスト出演だわ、博雅はモテモテだわ、とサービスも満点。絵物語にふさわしい、楽しいお話でした。村上豊氏の挿絵は、
本当に素敵ですね。

 でも、何と言っても、桃の種を含んでほっぺがぷっくりな博雅が、超可愛いぞ〜。



<出典> 『宇治拾遺物語』3段「鬼に瘤取らるる事」

 頬に大きな瘤を持つ老薬師の平大成が、鳥辺野で鬼の宴に遭遇する。紅爪茸を食べて陽気になった大成は、面白おかしく鬼の前で
舞い踊って、喝采を浴びた。再会の証に、と頬の瘤を取られた大成を見て、同じく頬に瘤を持った弟の中成がこれをうらやんで、大成を
迎えに来た鬼たちと共に宴に出かけてしまう。中成の運命は・・・。





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