ゲストの女性たち
ヴァイオレット・ハンター/ナターシャ・リチャードスン Violet Hunter...Natasha Richardson 「ぶな屋敷」
法外な報酬と自慢の髪を切ることを条件とした奇妙な就職口の不安を感じてホームズのもとを訪れる、美しい家庭教師。
原作でも、その元気のよい行動力が印象的。後には、私立学校の校長にまでなったと言われ、参政権も結婚後の財産権もなかったこの時代の女性の、自立した姿を示していて、興味深いです。
彼女に限らず、「孤独な自転車乗り」のヴァイオレット・スミス、「ソア橋」のグレース・ハンターなど、ホームズ物語に登場する家庭教師は、勇敢で意志の強い女性が多いですね。当時のイギリス社会での、家庭教師の地位や待遇が決して恵まれたものではなかったことは、他の作家の作品(『ジェイン・エア』、『若草物語』(メグが、イギリスの上流婦人に「家庭教師風情が」とバカにされる)など)からも、よくわかることですが、それでも、彼女たちの多くは、教養もあり、もともと低い階級の出身でないこともあり、自立しているという自信と誇りを持って生きていたのでしょう。
で、グラナダ版で彼女を演じたナターシャ・リチャードスンはシリーズ中、指折りの美女と言ってよいでしょう。子猫のような逆三角形の顔と抜けるような白い肌、大きな瞳が印象的でした。
セントクレア夫人/エレノア・デヴィッド Mrs.St Clair...Eleanor David 「唇のねじれた男」(「もう一つの顔」)
夫ネヴィル・セントクレアが、謎の失踪を遂げる。
原作では、貧民街で夫の姿を発見し、物語の発端を作ったものの、その場にあった血痕を見て気絶してしまうような、典型的な良家の夫人で、さほど印象深い女性ではないのですが、グラナダ版では、貧民街に迷い込んで、物乞いの子どもたちに取り囲まれながらも、無闇に取り乱さず、恐ろしげなインド人ラスカーにもひるむことなく立ち向かい、夫のいた部屋に踏み込んだ時も粘り強く捜索を続けて夫の衣類を発見するなど、なかなか芯の強い女性として描かれています。
演じたエレノア・デヴィッドは、上品な美しさで、一見か弱げに見えながら、勇敢で愛情深い夫人をよく表現していたと思います。
レディ・メアリ・ブラッケンストール/アニー・ルイーズ・ランバート Lady
Mary Brackenstall...Annie Louise Lambert
「修道院屋敷」
オーストラリア生まれ。夫ブラッケンストール卿が、何者かに撲殺、彼女自身も殴られ、椅子に縛り付けられていたが・・・。
個人的に、ブラッケンストール夫人を演じたアニー・ルイーズ・ランバートは、シリーズ中一番の美女だと思っています。(笑)金髪と白い肌、透き通るような青い瞳、夢見るような表情。原作の表現「優雅なおもかげ、女性の典型というべき容姿、美しい顔かたち」「肌は白く、髪は金色で目はあおく」そのままのひとでした。そんな彼女の顔に無残に残る殴られたあと。こんな美しく可愛らしいひとを虐待するなんて、サー・ユーステスってのは、まさに野獣だ、と憤慨し、クロッカー船長に思いっきり感情移入してしまいました。(笑)
船長を庇い通している間は、おっとりして、つかみどころのない物腰でしたが、全てが明らかになると、オーストラリア育ちらしい奔放さが表に出て、特に、思わずホームズに抱きついてしまうところなど、なかなか描き方も工夫されていましたね。うろたえて一瞬固まっちゃうホームズが何やら可愛かった。(笑)(ちなみに原作では、ベーカー街に呼ばれる場面はありません。)
クロッカー船長を会っているところを夫に見つかった時、驚くとか怯えるというよりは、困ったような様子だったのが、ちょっと新鮮でした。
アニー・ハリスン/アリスン・スキルベック Annie
Harrisonl...Alison Skilbeck
「海軍条約事件」
婚約者のパーシー・フェルプスが、重要な条約文書を紛失、神経衰弱に陥った彼を献身的に看護する。
確かに、原作でも筆跡を見たホームズに、「なみはずれた性格」と評された女性ではありますが、それにしても、グラナダ版では、存在感が異様に大きかった。病のフェルプスを看護する様子は、恋人に献身している、というよりは、母が我が子を庇護しているかのよう。(爆)頭を膝に載せる仕草とか、女優さんがフケ顔なだけに余計。(失礼)病室にやたら花が飾られているのも、彼女の婚約者に対する過剰な思い入れを表しているかのよう。ホームズが、「過保護だ」と言ってしまうのもよくわかる・・・。
愛するパーシーを苦しめたのが、他ならぬ自分の兄だと知れば、自らの手で兄を締め殺しかねんでしょうねえ。