登場人物紹介

 

 シャーロック・ホームズ

 ジョン・H・ワトスン

 ハドスン夫人

 マイクロフト・ホームズ

 レストレイド警部

 

シャーロック・ホームズ ジェレミー・ブレット Sherlock Holms...Jeremy Brett
 私立探偵。並外れた推理力、洞察力、観察力。合理的、科学的思考を重んじ、情緒的、感傷的感覚を排する。コカインを常用し、ヘビー・スモーカー。趣味は、化学の実験とバイオリンの演奏。女嫌いで人嫌い。ワトスンしか友達がいない。何事につけマイペース。大変なうぬぼれ屋。自分が天才であることを十分過ぎるほど理解している。権威をかさに来て威張るヤツが大嫌い。負けずに自分も威張り返したりする。大人げない。正義感が非常に強く、弱い者、虐げられた者たちに対する思いやりは人一倍深い。ロンドンのベーカー街に住んでいる。兄がいる。

 グラナダ版では、ワトスンの描き方が原作に忠実である点がよく強調されていますが、日本の視聴者にとっては、ホームズの描き方の方が意外と新鮮に映ったのではないでしょうか。

 もちろん、熱心なシャーロキアンならずとも、少しでも正典にじかに親しんだことがある人ならば、ジェレミー・ブレット演じるホームズが、外見も身振りも、原作のイメージそのままで、全く違和感なく受け入れることができるでしょう。

 しかし、一般に、日本では、モーリス・ルブランの作品の影響のせいか、粋な伊達男のアルセーヌ・ルパンに対して、ちょっと野暮ったいイギリス男なホームズ、というイメージが定着している節があります。現にジェレミー・ブレッドのホームズを見て、「死神みたいで気持ち悪いホームズ」と言った人がいます。いや、もともとホームズってああいう感じなんだってば。(汗)

 それにしても、ホームズを演じたジェレミー・ブレットは、非常に優雅で魅力的でした。黒いフロック・コートとシルク・ハットを身に着け、ステッキを肩に当て、早足で軽快に歩く姿、原作にもある、両手の平を顔の前で合わせる仕草や人差し指を唇に当てる仕草、緩慢な動きから不意に身を翻して振り返る身のこなし。何より、あの印象的な大きな灰色の瞳。彼は、シャーロック・ホームズというヒーローを演じる以前に、ただそこに居るだけで、ドラマの中心を自分に引き付けていたのでした。

 ジェレミー自身は、自ら「ホームズよりワトスンに近い。」と語っているように、温厚で明るい人柄だったそうです。そのせいか、彼の演ずるホームズからは、原作のホームズよりも、人間的な暖かさが感じられたように思います。

 ところで、実際のジェレミーの声はけっこう仰天に甲高かったりするのですが、(原作でも、ホームズの声は甲高いことになっている)日本語吹き替え版の露口茂氏の深みのある声は、ホームズの人物像をより奥行きのあるものとしていて、独特の雰囲気を作っていましたね。


 ジェレミー・ブレット・プロフィール

 シャーロック・ホームズを演じたジェレミー・ブレットは、1933年11月3日、イギリスのバークスウェルで生まれました。1954年に、 マンチェスターのライブラリー・シアターで舞台デビューし、その後大作映画「戦争と平和」(1955)、オードリー・へプバーンの有名な「マイ・フェア・レディ」(1964)に出演しています。

 若い頃のジェレミーは、陽気な青春スター、というイメージだったそうです。ホームズのイメージからは、ちょっとかけ離れているような気がしますが、役を離れたジェレミーは、ラフな髪型が似合う、快活そうな男性で、かつてはなかなか爽やかな好青年ではなかったかと思われます。

 その後、舞台を中心に活躍していましたが、(身振りの大きい彼の演技は、舞台の影響でしょう。)1984年に、ホームズ役に選ばれてからは、ホームズ役者としてのイメージが定着していきます。

 ジェレミーは、若い頃から心臓に疾患を持っており、それに、シャーロック・ホームズ、というプレッシャーの大きい役を演じつづけることによる精神的な疲労と、1985年に最愛の奥様を失ったショックも加わって、シリーズの終盤は、病と戦いながらの演技でした。かの国のイエロー・ジャーナリズムの餌食とされ、重い神経症を患っているとか、エイズに感染してるなどと書かれたり、心臓病の薬の副作用で太ってしまい、視聴者を心配させたのです。

 そして、「ボール箱」への出演を最後に、1995年9月12日、心臓麻痺で世を去ります。享年61才でした。

 

ジョン・H・ワトスン デヴィッド・バーグ/エドワード・ハードウィック John H Watson...David Burke/Edward Hardwicke
 医師。ホームズの親友で記録係。やや単純だが、堅実で常識ある紳士。誠実。友情に篤い。心優しく、周囲の人々、とくに女性に対する心配りが細やか。ロマンティスト。ホームズよりは社交的で、人当たりがよい。ホームズは、彼がいないと生きていけない。元軍医で、左足に古傷を抱えている。原作では二度結婚したらしい。(三度という説もある。)グラナダ版では独身のまま。

(バーグ版ワトスン)豪放で快活。冒険心が旺盛。

(ハードウィック版ワトスン)穏やかで、暖かい人柄。少しシニカルな面がある。苦労人っぽい。よくため息をついている。


 管理人自身は、ホームズ物語との本格的な出会いが、正典の「緋色の研究」なので、余り実感がないのですが、従来映像化されたホームズ物語では、ワトスンがおバカな三枚目として描かれることが普通だったとか。でも、日本では、宮崎駿監督のアニメ『名探偵ホームズ』などは、ワトスンを情に厚い、よきパートナーとして描いたりしてましたけどね。代わりに、モリアーティが全くの別キャラだったけど。(笑)

 グラナダ版は、その点を特に意識して、ワトスンを、ホームズのかげがえのない親友としての資格を十分に備えた、教養のある立派な紳士として描こうとし、その意図は見事に成功したことは言うまでもないでしょう。もともと「ヒーローのよき相棒」というポジションのキャラには頗る弱く、ワトスンびいきだった私には、非常に喜ばしいことでした。

 さて、グラナダ版では、「最後の事件」を境に、ワトスン役が、デヴィッド・バーグからエドワード・ハードウィックにバトン・タッチされたのは周知の事実です。この交代については、一般的には、ワトスンが「老けた」と受け取る傾向が専らのようなのですが、私としては、背が高く、男らしい容ぼうのデヴィッドから、小柄で優しい雰囲気のエドワードへの交代は、ホームズの対等な相棒であるワトスンから、献身的な女房役(爆)としてのワトスンへの転換だと思ってたりします。スチール写真などでも、デヴィッドのワトスンは、ホームズと肩を並べている、といった雰囲気なのに、エドワードのワトスンは、そっと寄り添っている、といった風情で。(笑)

 このような印象は、二人の容貌の違いからのみ来るものではないでしょう。デヴィッドの演じるワトスンは、ホームズとの冒険に目を輝かせ、嬉々として、自ら進んで捜査に同行しているのに対し、エドワードのワトスンは、ホームズの仕事に対してはやや距離を置き、それよりむしろホームズ本人を案じているような態度を示すことが多いようです。事件に同行する時も、否応なく連れて行かれてる感じがします。時には、甲斐甲斐しい程にホームズの世話を焼いてたりして。寒がりのホームズに毛布をかけたり、水汲んであげたり、お茶入れたり、居留守使いたいホームズの代わりに依頼人に応対したり。(いずれも、原作にはない件り)

 この違いは、デヴィッドとエドワード、それぞれの役柄に対するアプローチの違いももちろんあるのでしょうが、また、デヴィッドが出演したシリーズの初期の作品は、「ボヘミアの醜聞」や「まだらの紐」など、原作の評価の高いエピソードが多く、ほぼ原作通りに映像化されているのに比べ、エドワードの出演作は、ドラマ・オリジナルの比重が大きく、独自に役作りをする余地が大きかったであろう、ということがあるかもしれません。


 デヴィッド・バーグ・プロフィール

 初めにワトスンを演じたデヴィッド・バーグは、1934年5月25日、リヴァプールで生まれました。彼もまた、ワトスン役に選ばれるまでは、主に舞台で活躍してたようです。また、BBC制作のシェークスピアのシリーズのうち、「ヘンリ4世」(1984)、「冬物語」(1981)、「リチャード3世」(1983)に出演しています。このシリーズは、日本でもNHKで放映されてます。

 デヴィッドの演じた、「原作通りのワトスン」は、ユーモアに溢れた魅力的な人物でしたが、1985年に「最後の事件」が放映された後、ロイヤル・シェークスピア・カンパニーに入団するため、ワトスン役を降りることになります。

 エドワード・ハードウィック・プロフィール  

 デヴィッド・バーグ降板後、ワトスン役を引き継いだエドワード・ハードウィックは、1932年8月7日、ロンドンで生まれました。彼の父は、サーの称号を持つ名優、サー・セドリック・ハードウィックでした。

 エドワードは、結構映画の出演作が多く、日本でも簡単に見られるような有名な作品にも、なかなか重要な役で出てます。デミ・ムーア主演の「スカーレット・レター」(1995)、主演のアンソニー・ホプキンスの弟役(!)を務めた「永遠の愛に生きて」(1993)(この作品に出演するために、ホームズの「金縁の鼻眼鏡」を休んでます。)、最近では、アカデミー賞にもノミネートされた「エリザベス」(1998)など。管理人は、WOWOWで「エリザベス」をちらっと見る機会がありましたが、ほとんどワトスンが中世の貴族のコスプレして出ているかのような、いい人な役柄でした。(でも、最後は処刑されて生首になってしまうのだ。ひー。) 

 ジェレミーとエドワードは、役を離れたプライベートでも、大変仲のよい友人同士だったそうです。晩年病気がちだったジェレミーを、エドワードがフランスの自分の別荘に招いて、静養させたり、収録の現場でも、こまごまとした気遣いをして、ジェレミーが役に入れるようにしてあげたりしていたとか。そんな二人の友情が、ドラマでのホームズとワトスンの友情物語に、より深みをもたらしていたのかもしれません。

 

ハドスン夫人 ロザリー・ウィリアムス Mrs.Hudson...Rosalie Williams
 ホームズとワトスンの住む下宿の女主人。

 原作では、「瀕死の探偵」以外は、名前しか出て来ないことの多いハドスンさんですが、グラナダ版では、マイペースなホームズに何かと振り回されておろおろしながらも、ホームズとワトスンを暖かく見守る可愛らしいおばあちゃまとして、よく顔を見せています。ホームズを尊敬し、その仕事に興味を持っているのはもちろん、ワトスンに対しても、「お優しい方」と評したり、「もうお年なんですからね。」と小言を言ったりしているところが、ほのぼの。

 

マイクロフト・ホームズ チャールズ・グレイ Mycroft Holms...Charles Gray
 ホームズの兄。政府の重要な仕事をしているらしい。弟より才能は上だが、弟と違って、ずぼらで出不精。一切話をしちゃいけないクラブ、ディオゲネス・クラブを主宰している。

 原作でも、それほど登場の場面が多くはないのに、何だか印象的な兄ですが、グラナダ版では、それを上回る活躍振り。初登場の「ギリシャ語通訳」では、原作にはない最後のどんでん返しで、おいしいところをさらってました。

 また、レギュラーの二人にアクシデントがあった場合の代打要員にされてて、原作では登場してない作品で、ワトスンやホームズの代役を務めたりしたので、結構活動的なイメージがついちゃったりして。エドワードが映画撮影のため欠席した「金縁の鼻眼鏡」で弟のパートナーを、ジェレミーの病状が悪化して緊急入院したため、「マザランの宝石」(日本での最終回)では自ら探偵役を務めています。

 マイクロフトを演じたチャールズ・グレイ(2000年に逝去)は、太っているか痩せているかの違いだけで、なかなか顔の鋭い感じが、ジェレミーのシャーロックと兄弟っぽく見えました。存在感も圧倒的。吹き替えもよかったです。「ブルース・パーティントン設計書」から声を当てている久米明氏の「シャーロック」って言う時の独特の響きがいい感じでした。

 

レストレイド警部 コリン・ジェヴォンズ Inspector Restrade...Colin Jeavons
 ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)の警部。ホームズとはかなり相性が悪い。

 警察関係者の中では、特に登場回数が多いのですが、なかなか嫌味でいい感じです。(笑)グラナダ版では、他の警部さんは、結構ホームズに敬意を払っている人が多いので、余計感じが悪いですね。演じているコリン・ジェヴォンズの好演に負うところも大きいでしょう。

 

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